星野リゾートの温泉旅館ブランド「界 加賀」で伝統文化を体験

石川県加賀市の山代温泉は、奈良時代の高僧行基が霊峰白山へ向かう途中、一羽のカラスが羽の傷を癒している温かい湧水をみつけたのが起源だとされています。このカラスは、古事記や日本書紀にも出てくる三本足の霊鳥、八咫烏(やたがらす)だったとか。それから約1300年間、人々を癒してきた山代温泉は、北大寺魯山人や与謝野晶子ら、多くの文化人に愛され、湯、食、工芸が栄えたまちでもあります。「界 加賀」は、1624年創業の老舗旅館「白銀屋(しろがねや)」の歴史を受け継いで、2012年にオープン、2015年には大規模改修を行いリニューアルオープンしました。紅殻格子(べんがらごうし)の風情ある外観は温泉街の中でもひときわ目をひくものです。

古い時代の名残と現代工芸が随所に

紅殻格子のしっとり落ち着いた色は、紅殻(べにがら)という顔料の色で、金沢の町家に多く見られます。建物の外には、白銀屋時代に使われていた、馬をつなぐ金具もそのまま残されています。また、2階部分に立派な「うだつ」を見ることができます。うだつとは、装飾と防火を兼ねたもので、設置するのに多額の費用がかかることから、富や成功の証とされているものです。

加賀を治めた前田家の家紋は梅鉢。フロントホールの梅の文様はねじ梅、この地方の家紋には梅に関係するものが多いようです。フロントホールのある伝統建築棟は国の登録有形文化財です。

フロントホールで注目すべきは、加賀の伝統工芸品、水引を使った芸術作品「光降る」。天井から連なる大小様々な球体は、牡丹雪をイメージした、アーティスト自遊花人の作品です。

渡り廊下から見える中庭の通路は九谷焼で作られており、その特徴ともいえる和絵具の緑、黄、赤、紫、紺青の五彩が美しく輝いています。

館内の随所に現代の作家が作った九谷焼がさりげなく設置されています。24時間オープンされているギャラリーでは魯山人が日本各地で作ったうつわを間近に見ることができます(ガラスケースに入っているため触れることはできません)。

トラベルライブラリーに展示されている屏風は魯山人の書。酔って書いたため未完成だということですが、それもまた「粋」だと白銀屋の主人が大事に保存し、今に受け継がれています。

割れた器のかけらを再生する金継ぎ

庭の茶室も国の有形文化財に登録されています。今回は特別にこの茶室で金継ぎを体験させていただきました。

風の音や鳥の声だけが聞こえる静かな茶室にいると心が落ち着きます。風流人たちがここで過ごした時間を共有できたような感覚になりました。

金継ぎとは割れたり欠けたりした器を漆で接着し、金などの金属粉で装飾して仕上げる伝統的な修復技法です。金継ぎで修復したうつわは、大切にされている証であり、新たな美をもたらすものでもあります。界 加賀のスタッフは、これまでに300を超える館内の器を修復しています。

漆を使う金継ぎは難しくて時間もかかるので、ここでは別の接着剤を使ってブローチや箸置きなどの制作を体験できます。九谷焼のかけらを自分で選んでくっつけ、金粉を振りかけると個性的なオリジナル小物の完成です。2023年4月19日には、館内に新たに金継ぎ工房が誕生しますので、お楽しみに。

勇壮な加賀獅子舞

界の各施設で楽しみなのが「ご当地楽」。界 加賀では、金沢市の無形民俗文化財である加賀獅子舞が夕食後の時間に上演されます。「ガンガン!」という大きな音に驚いて振り返ると、獅子の登場。大きな音は獅子の口から発せられる音でした。人と獅子の対決を演じる舞は大迫力。振付・衣装・音楽、すべてオリジナルだそうです。

獅子はその大きな口で厄や災いを食べてくれるため、厄払いができる縁起物だとされています。演じられた「獅子殺し」という演舞は、邪気をおなかにため込んだ獅子を殺して災いを消滅させ、その後再生した獅子が福をもたらす、というものです。

八方睨(はっぽうにらみ)と呼ばれる眼力、独特の風貌は、加賀の武家文化を今に伝えるもの。この獅子頭は、白山市の知田工房が桐の木から作ったオリジナルで、ずっしりと4kgもの重さがあります。

体操でカラダをのばして1日が始まる

温泉とグルメと獅子舞を堪能した翌朝は朝の体操から始まります。自由参加ですが、入浴の前後のストレッチは心地よいので、ぜひにと参加しました。湯守のリードで首や肩や腕、深い深呼吸でゆっくりと動かしていきます。

ストレッチのあと、座禅で心を鎮めると、新しい1日への活力が湧いてきます。朝の入浴は、のぼせない程度にさっと入ると、すっきり頭が冴えてくる気がします。

工芸品に和菓子、目移りする魅力的なお土産

館内のショップには、伝統工芸品や和菓子など、加賀ならではのお土産が充実。界 加賀オリジナルの九谷焼湯呑や飯椀、獅子頭のオブジェなどは、旅の記念にうってつけです。

おしゃれなパッケージに入った伝統的な和菓子は、地元の老舗の銘菓です。お土産用にと思いつつ、実は試食して気に入ってしまって、自宅用に購入したもののほうが多いのです。

星野リゾートのスタッフの皆さんは、地域について、伝統について、とても詳しく説明してくださるので、知識が増える分、旅の思い出もたくさんになります。金継ぎ体験や加賀獅子舞鑑賞といった貴重な経験が、加賀の思い出としてより深く心に残りました。
(取材・文 松田きこ)

■界 加賀
石川県加賀市山代温泉18-47
界 加賀

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